職場で、相手から短い返事が来ただけなのに、胸のあたりが固くなる。
まだ何も言われていないのに、頭の中では「怒らせたかもしれない」が始まる。そこで慌てて謝ったり、聞きたかったことを引っ込めたりする。
あとから考えると、そこまで怖がる場面ではなかった。それでも、その瞬間は反応してしまう。
こんな経験はないでしょうか。
エモーションフリーが扱うのは、まさにこの「分かっているのに繰り返してしまう反応」です。
エモーションフリーとは
エモーションフリーは、言葉と身体の変化を使い、特定の場面で繰り返す感情反応を見直していく方法です。一般社団法人行動変容協会代表理事の稲垣正信が開発しました。
大切なのは、つらい感情を我慢することでも、無理に前向きになることでもありません。
「同じ場面になると、なぜか身体が固まる」
「言いたいことがあるのに、先に謝ってしまう」
「もう終わった出来事なのに、思い出すと当時と同じ苦しさが出てくる」
こうした反応を、考え方だけで説得するのではなく、その場面を思い浮かべたときに起きる身体の変化と一緒に確認します。
同じ出来事でも、反応は人によって違う
上司から「あとで話があります」と言われたとします。
何も気にせず仕事を続けられる人もいます。少し気になる人もいます。胸が苦しくなり、過去の失敗を次々と思い出す人もいます。
言葉は同じです。それでも反応は同じではありません。
エモーションフリーでは、出来事そのものと、その出来事に触れたときの反応を分けて見ます。
相手の言葉を変えることはできないかもしれない。過去の出来事をなかったことにもできません。では、何を扱えるのか。
その場面で自動的に出てくる緊張、怖さ、怒り、落ち込みなどの反応です。
感情をなくす方法ではない
「エモーションフリー」という名前から、感情が出ない人になる方法だと思われることがあります。
そうではありません。
危険なときに怖いと感じることも、大切なものを失って悲しむことも、人に傷つけられて怒ることもあります。必要な感情まで消すことを目的にはしていません。
扱うのは、今の現実に対して大きすぎる反応や、終わった出来事に何度も引き戻される反応、同じ選択を繰り返すきっかけになっている反応です。
反応が少し変わると、同じ場面でも選べる行動が増えます。
すぐ謝る以外に、相手の意図を確認できる。黙る以外に、短い言葉で希望を伝えられる。逃げるか耐えるかだけでなく、距離を置くという選択もできる。
目指しているのは、感情のない状態ではなく、反応に押されて決める状態から離れることです。
セッションでは何をするのか
セッションの基本的な流れは、次のようなものです。
1. 扱う場面を決める
「人間関係がつらい」のような大きなテーマだけでなく、最近起きた具体的な場面を確認します。
たとえば、「会議で意見を求められると、頭が真っ白になる」「家族から頼まれると、断る前に引き受けてしまう」といった場面です。
2. 今の反応を確認する
その場面を思い浮かべたとき、何を感じるか。身体のどこに変化が出るか。今の強さはどのくらいか。
うまく説明できなくてもかまいません。「胸が重い」「喉が詰まる感じがする」「何も感じない」も、確認の手がかりになります。
3. 状況に合わせた言葉を使う
担当者が話を聞き、反応に合う言葉を組み立てます。その言葉を使いながら身体の緊張と変化を確かめます。
ただ決まった言葉を唱えればよい、というものではありません。同じ悩みに見えても、何に反応しているかは人によって違うからです。
4. 同じ場面をもう一度確認する
最初に選んだ場面を思い浮かべ、反応の強さや感じ方に変化があるかを見ます。
変化の出方には個人差があります。一度で大きく変わることもあれば、別の場面や反応を続けて確認することもあります。
詳しい進み方は、エモーションフリーセッションの手順で説明しています。
どんな相談で使われるのか
たとえば、次のような相談があります。
- 人前で話すと強く緊張する
- 断りたいのに反射的に引き受ける
- 悪くない場面でも先に謝ってしまう
- 過去の失敗を思い出すと動けなくなる
- 特定の相手の前だけ、言いたいことを飲み込む
- 休んでいても仕事のことが頭から離れない
ただし、同じ悩みの名前がついていても、同じ進め方になるとは限りません。
「人前で緊張する」という一つの言葉の中にも、失敗が怖い、笑われるのが怖い、評価が下がるのが怖い、何を話せばよいか分からないなど、違う反応が含まれています。
だから、悩みの名前だけで判断せず、実際にどの場面で何が起きているかを見ます。
受ける前に知っておいてほしいこと
エモーションフリーは医療行為ではなく、病気の診断や治療の代わりになるものではありません。服薬の中断や変更を勧めるものでもありません。
強い不調が続いている、日常生活を保てない、自分や他人を傷つけるおそれがある、現実の暴力・脅迫・支配を受けている場合は、医療機関や公的な相談窓口、安全を確保できる支援先を優先してください。
また、結果を保証するものではなく、変化の感じ方や必要な回数には個人差があります。途中でつらさが強くなったときや、扱いたくない話題が出てきたときは、担当者へ伝えて止めることができます。
よくある質問
うまく話せなくても受けられますか?
はい。きれいに説明する必要はありません。最近あった一つの場面から、担当者と一緒に整理します。
感情がよく分かりません
感情の名前が出なくても、身体の変化や、その場で取りたくなる行動から確認できます。何も感じないこと自体も、そのまま伝えてください。
一回で変わりますか?
一回で変化を感じる人もいますが、すべての人に同じ結果が出るとは言えません。扱う問題、反応の重なり、生活環境などによって異なります。
自分でもできますか?
簡易的に取り組める方法と、担当者と行う方法があります。最初は、自分の反応に合った言葉の選び方と確認方法を学んでから実践する方が進めやすいでしょう。
まず、自分が繰り返している一場面を見つける
悩みを全部説明しようとすると、どこから話せばよいか分からなくなります。
そんなときは、最近の一場面だけを選んでください。
誰といたか。何を言われたか。その瞬間、身体に何が起きたか。そして、本当はどうしたかったのか。
ここまで分かると、「性格だから仕方ない」で終わっていた反応を、具体的に見られるようになります。
セッションを検討する場合は、先に受ける前の心構えと準備を読み、認定講師・セラピスト一覧から担当者を確認してください。