廊下で相手がぶつかってきたのに、「すみません」と言っている。
会議で別の担当者の遅れを指摘され、「私の説明不足でした」と引き取っている。
相手がため息をついただけで、理由を聞く前に「ごめんなさい」が出る。
あとで考えると、自分が悪かったのかよくわかりません。それでも、その瞬間は謝らずにいられない。
礼儀正しいだけなら困りません。問題は、事実を確認する前に責任まで引き受けてしまうことです。
謝罪には、場を早く終わらせる働きがある
先に謝ると、相手の怒りが弱まることがあります。会話が短くなり、険しい空気が少し落ち着く。
過去にそれで助かった経験が多ければ、「ごめんなさい」は安全を作る早い方法になります。
たとえば、親の機嫌が悪いときに先に謝れば怒鳴る時間が短くなった。兄弟の失敗まで自分が謝ると家庭が静かになった。職場で責任を引き取ると上司の追及が止まった。
役に立った場面があったから、今も出ます。だから「謝るな」と根性で止めようとしても、相手の強い声や表情を見た瞬間に戻りやすい。
こうした「気づく前に選んでいる」反応を整理するときは、無意識に選んでいる人間関係のパターンを見つけるの見方も参考になります。
ただ、早い謝罪はその場を収める代わりに、誰が何を直すのかを曖昧にします。自分の責任ではない仕事が集まり、周囲は「この人が引き受ける」と学びます。
「すみません」を全部悪者にしない
日本語の「すみません」には、いくつかの使い方があります。
道を譲ってもらったときの軽い挨拶。店員へ声をかける言葉。相手へ迷惑をかけたときの謝罪。
全部を禁止すると不自然です。
分けたいのは、「会話を始めるためのすみません」と「私が悪いと認める謝罪」です。
前者なら、「ありがとうございます」「失礼します」「少しいいですか」に置き換えられます。後者は、何に責任があるかを確認してから使います。
謝る直前の一秒を見る
反射的な謝罪を減らすなら、謝った後の反省より、出る直前を見ます。
直近の場面をひとつ選び、次の順番で書いてください。
- 相手は何と言ったか
- どんな表情、声、沈黙があったか
- 自分の胸、喉、顔、呼吸に何が起きたか
- 何について謝ったか
- 謝らなければ何が起きると思ったか
「怒られると思った」で終わらせず、その先まで書きます。評価を下げられる。関係を切られる。仕事を失う。長時間責められる。
予想が具体的になると、いま本当にある危険なのか、昔の経験から急いで出した答えなのかを見分けやすくなります。
責任を三つに分ける
問題が起きたら、紙を三列に分けます。
- 自分がしたこと
- 相手がしたこと
- 仕組みや環境の問題
納期の遅れなら、自分の連絡が遅れたのか。相手の素材提出が遅れたのか。そもそも無理な日程だったのか。
全部を自分の列へ入れないことです。
自分の責任があるなら、そこは謝ります。ただし、謝る範囲を限定します。
「連絡が遅れた点は申し訳ありません。作業の遅れは、前日の仕様変更が影響しています。新しい日程を確認させてください」
謝罪、事実、次の行動を分けると、何度も「本当にすみません」と繰り返して許しを待たずに済みます。
謝罪の代わりに使える確認文
責任がまだわからないときは、すぐ謝らず、事実を増やします。
- 「私が対応すべき点を、具体的に教えてください」
- 「原因を確認してから返答します」
- 「何が起きたのか、順番に確認させてください」
相手が困っていることへ「それは困りましたね」と応じるのも、責任を認めることとは別です。共感はできます。でも、相手が怒っているからといって、その要求すべてに従う義務が生まれるわけではありません。
最初から全部の謝罪を止める必要はありません。一日一回だけ、謝罪を確認質問へ変えます。そのとき自分のからだと、相手の実際の反応を記録してください。
先に謝ってしまっても、訂正できる
反射で「私の責任です」と言ってしまう日はあります。
それで確定ではありません。
「先ほど私の責任だとお伝えしましたが、記録を確認すると違いました。訂正します」
後から言い直せます。
職場なら、依頼日時、担当、変更内容、合意した期限を文章に残します。曖昧な仕事ほど、早く謝る人へ責任が集まりやすいからです。繰り返し押しつけられる場合は、上司、人事、相談窓口などへ記録を持って相談します。
危険な相手には、謝らない練習をしない
謝らなければ暴力や報復が起きる関係では、直接対決を勧めません。
その場を切り抜けるために謝ることが必要な場合もあります。安全を確保し、公的な相談窓口、警察、法律の専門家など、状況に合う支援へつないでください。
「自分が謝るから相手が暴力を続ける」と、被害を受けている人の考え方へ責任を置き換えてはいけません。暴力や支配の責任は、行う側にあります。
頭でわかっていても、先に「ごめんなさい」が出るとき
責任を分ける方法を知っていても、相手のため息を聞いた瞬間に胸が縮み、謝罪が出ることがあります。
エモーションフリーのセッションでは、謝った出来事だけでなく、どの合図で反応が始まり、からだのどこに出て、何を恐れたかを分けて見ます。その場面を思い浮かべたときの反応を確認しながら進めます。
エモーションフリーの基本と確認の進め方は、エモーションフリーとは?感情を我慢せず、繰り返す反応を見直す方法で説明しています。
目指すのは、謝れない人ではありません。
謝るべきときは謝る。わからないときは確認する。違っていたら訂正する。自分の責任に合った言葉を、自分で選べることです。
今日できることは、最後に謝った一場面を紙へ書き、「何について謝ったのか」を一文にすること。答えられなければ、そこが最初に確認する場所です。